「ミス・パイロット」の見どころを航空業界の裏側から徹底解説!

ミス・パイロット ― 女性進出が進まない職種の女性パイロットの奮闘

撮影に全面協力する全日空では、現在約2500人在籍するパイロット(機長、副操縦士)のうち、女性パイロット(ミス・パイロット)は副操縦士のみの約20人である。ドラマは就職活動に失敗した主人公、手塚晴(はる)がパイロットを志し、仲間とともに厳しい訓練や重圧を乗り越えながら成長し、この狭き門に挑む奮闘記である。「夢をあきらめない」素晴らしさ、仲間との友情、見ごたえのある飛行シーン、今まで描かれることのなかった女性パイロット(ミス・パイロット)への道のりなど話題に事欠かない魅力あふれる作品となりそうだ。

パイロットは、著しく女性の進出が進んでいない職業である。同じように、ほぼ男性の職場だった医師と弁護士と比べてみよう。1980年の日本において、女性医師の割合は9.7%、女性弁護士の割合は3.7%だった。これが2010年には女性医師は18.9%、女性弁護士は16.2%となっている。これはほとんど男性しかいない年配層も含めた全世代で見た場合の女性の割合なので、近年特に若い世代では急速に女性の進出が進んでいることが分かる。

ミス・パイロット 一方、全日空を例に取ると、女性パイロット(ミス・パイロット)の割合は20人÷2500人はわずか0.8%である。女性医師や女性弁護士が活躍するドラマは数多く作られてきたが、女性パイロット(ミス・パイロット)のドラマがこれまでになかったのも、あまりにもその数が少なすぎたからであろう。

パイロットという職種は、どうしてこのように女性の進出が進まないのだろうか?その理由は、フライトで何日も家を空けることが多く出産・子育てを経て仕事を続けるのが難しいこと、パイロットを一人養成するのに航空会社は莫大な金をかけなくてはならないこと、である。

飛行機というのはともかく金のかかる代物である。最もコストのかかる大型機の訓練過程では、燃油費や整備費、着陸料、教官等の人件費などで、1時間の飛行訓練で何十万円、あるいは100万円を超える費用がかかると言われている。小型機の初等訓練から含めて、堀北真希演じる晴のような自社養成で採用した学生に大型旅客機のパイロットのライセンスを取らせるまで、航空会社は一人当たり何千万円、あるいは1億円を超える訓練費を投入すると言われている。

女性医師や女性弁護士のように、忙しい仕事でも毎日家に帰れるならともかく、母親が子供を置いて何日も家を空け、何かあってもすぐに帰宅できない海外に行く、というのは実に難しいことである。また、パイロットのライセンスとは定期的に更新試験を受けて資格維持しなければならないので、産休・育休を取ればそれらが切れてしまい、復帰が困難になる。結果、産休を取った後にそのまま退職してしまうと、会社としては多額の訓練費の損失となってしまう。民間企業にいくら女性の社会進出に協力する責務があるとは言っても、自力でライセンスを取得する医師や弁護士を採用するのとは異なり、多額の訓練費を負担する航空会社が女性パイロットの採用に躊躇する心理が働かないとは言えないのではないかと思う。

そういった中でも、以前はほとんどゼロに近かった女性パイロット(ミス・パイロット)もわずかではあるが活躍し始めてきている。日本航空のグループ会社のジャルエクスプレスでは、藤明里さんが2010年に日本初の女性機長となった。自費でライセンスを取ったあと航空会社に採用され、パイロット(副操縦士)として経験を積んできた努力と根性の人である。環境としてはまだまだ女性にとって逆風の多い職業ではあるが、結局のところパイロットとして仕事がしたいという思いの強さ、本気度が、どれだけ航空会社に伝わるか、が重要だと思う。女性の進出が遅れているパイロットという職業にも、ミス・パイロットというドラマがパイロットを志す女性の挑戦を後押ししてくれれば良いと思う。

藤明里さんの略歴(Wikipedia)

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